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Seaview & Jazz Café “Vista” 髙木睦人さん

千葉県屈指の景勝地である大房岬は南房総国定公園に指定され、自然公園内はホテル、キャンプ場、遊歩道、展望台などが整備されるリゾート地です。
今回は大房岬の富浦湾を望む絶好のロケーションに建つ「Seaview & Jazz Café “Vista”」の代表である髙木睦人さんにお話をうかがいました。
 

■ご出身と経歴をお願いします
南房総市に生まれ、人も自然もおおらかな環境で中学まで育ち、以降はこの地を離れて国内外を含めて引越すこと多分30回位、ようやく腰が落ち着きました。
 
今までエネルギー産業(石油開発)に従事しました。きっかけは10代半ばにガソリンは高騰、生活必需品は欠乏、社会は混乱、いわゆるオイルショックを経験、一方書物によれば太平洋戦争は日本が石油を求めてあちこち侵攻したとか・・・どうも石油は世の中に大きな影響を及ぼすらしいので面白そうに思えました。
 
単純そのものですが思い込みとは恐ろしく、学業も就職もそっち方面へ、そのせいで産油国での赴任生活は20年になりました。その間に現地会社の同僚が戦争に巻き込まれたり、友人が重病を患ったり、先輩が他界したり、やりたいことを実行するには今しかないと2018年3月にドーハでの仕事を最後に退職、2019年5月にカフェを開業しました。

【ドーハ 2018年3月】
アイスコーヒーと手作りショコラ

 
■南房総市に移住した経緯などを教えてください
この地に住む親が目に見えて衰えて行くのと、引越しに疲れて落ち着ける場所が欲しかったことから部分的移住、仕事は続けていたので、都内にギリギリ通勤可能な高速バス停直近の地を選びました。数年間はこの地と都内や海外との二重生活でしたが、2018年3月に完全移住。
 
カミさんも豊かな自然と東京からの適度な距離感が気に入ってくれました。また南房総は、国内外の様々な場所と比べて派手さはなくても、気候、山、海、都会からの距離、医療、治安等々を併せてバランスが良いし、加えて14歳まで育った事による体内のDNAも大きいと思います。
 
■南房総市に住んでみた感想(良い点、不便な点、休日の過ごし方等)をお聞かせください
 
<良い点>
まず治安の良さ、二重生活の際に南房総の留守宅期間は5年位ありましたが、窃盗被害は一度もありません。最近のような台風や災害があっても、商店等からの強奪や窃盗はほとんど無いし、他国の感覚ではやはり日本は“奇跡の国”です。
 
豊かな自然環境と気候、住宅地以外なら近隣との程良い距離を選べることで、たいていの趣味が実現できます。空間が豊かなので息詰まる感覚がない。山や海へのハイキング、釣り、休日菜園、日曜大工、何でもできます。また施設アクセスの良さ、例えばテニスコートが当日確保できるし料金も格安です。
 
特に海産物が豊富で美味くて安い。都内スーパーの向こうが透けて見えそうな刺身とは大違い。また車で10分位の範囲にも、日本料理、蕎麦、フレンチ、イタリアンレストラン等も、探せばちゃんとあるし美味くて安い。
 
東京や横浜から高速バスで90分、東京駅発着はほぼ30分毎、通勤も行き帰り指定席で居眠りも読書もPC仕事もOK、満員電車よりはるかに優雅です。
 
<不便だと思う点>
これらの恵まれた環境とのバーターになりますが、徒歩圏や近隣に飲食店、本屋、ジャズバー、コンサートホール等が少ない、あるいはありません。また食事は車で行くので、アルコール類が飲めないか送迎手配が必要。
 
気象条件が悪化する時に、行き帰りの交通や宿泊場所の心配が必要、また半島部の宿命で県外に出かけるには東京まで出るか、三浦半島側に渡る必要があります。また週末の経路途中の渋滞、環境を選んだ以上、これらを不便と言うのはおかしいですね。
 
■カフェを開業しようと思った経緯を教えてください
改めて開業理由を考えると、
・学生時代からジャズとオーディオとコーヒーが好きでそれらを満たし、
・自力開業できるような取り柄がないのにカフェなら何とかなりそうで、
・地域でジャズが聴ける場を同好の方々や若い世代に提供できれば、
・ささやかでも地域の多様性やカフェ文化に貢献できそう、
色々出てきますがどうも後から取って付けたようです。おそらく誰でも折に触れ、仕事をする意味を自問自答します。私の場合も家族のため、会社のため、何々のためと自分を励ますわけですが、どこか自分で選んだことを他に転嫁する匂いがある。結局は海外での石油開発の仕事が好きだったのが本質です。同様に、やはり開業の理由は好きだから、好きで始めた事は全て自己責任、言い訳の余地もないしスッキリします。我儘を諦めてくれたそカミさんと子供達には感謝です。
 
■Seaview & Jazz Café “Vista”の特徴を教えてください
<開業前>
身内からは、“血縁者で最も接客や接待に向いてない”私が喫茶店?学生時代にコーヒー店でバイトをしただけで当然あちこちダメだしの連発、開店できないと思われていたのは間違いありません。そもそも世の中から喫茶店が消えていく中で絶滅危惧種のジャズとオーディオがメイン、ミニケーキとナッツ以外食べ物なし、子供にまで甘さを指摘される始末、“言っても聞かないし、そのうち分かるでしょ”で始まりました。
 
<立地とキャッチフレーズ>
“Seaview & Jazz Café”です。Google Mapには好意的に“隠れ家的”と書いて頂きましたが、へんぴな富浦大房岬に上る坂の手前左側、北浜神社隣の丘の上です。テラス席からは富浦湾、対岸の三浦半島、行きかう船を一望、文字通りSeaviewです。音楽はジャズライブを再生装置で、などと言う身の程知らずな目標というか夢です。
 

 
<メニュー>
コーヒーは近隣や都内の焙煎店から5種類程度、注文を頂いてから手回しミルで挽いてドリップで淹れています。紅茶はイギリスやフランスのものが中心、ハーブティーは自家栽培したものをお出ししています。
 
コーヒーには産地と銘柄により個性がありますが、良い豆を、適度な炒り具合で、新鮮なうちに、適切な粒度で挽き、適温で淹れたものは、例外を除きほとんどが美味しく、是非皆様にはお試し頂きたいと思います。
 
ミニケーキをコーヒーや紅茶にお付けしています。現在チーズケーキとショコラ、ちなみに、コーヒーや紅茶とセットでワンコイン以下の値段でご提供しています。

【アイスコーヒーと手作りショコラ】
アイスコーヒーと手作りショコラ

 
<ジャズ、音楽に関して>
モダン、それ以前や最近の録音、米国系、欧州系、日本人等CDでは約1300枚程あります。店内ではワンホーンやピアノトリオ中心ですが、リクエストを頂ければゴリゴリ系をライブハウス並みの音量もありです。現在凝っているのはイスラエルのジャズ、地中海や中東的リズムにユダヤの哀しみがミックスした不思議な音楽です。
 
ジャズに凝るきっかけは学生時代に斜に構えて(今となっては笑うだけですが)うっ屈した日々を送っていた頃、友人からコルトレーン(テナーサックス奏者、1967年に他界)を聴かされて絶句、以後講義をサボってバイトのお金をレコードに注ぎ込むお決まりパターン、ただ親の顔が浮かぶと留年や退学はできず、何とか卒業しました。
“音楽にはジャンルは関係ない、良い音楽と悪い音楽があるだけ”、アルトサックス奏者のオーネットコールマンの言葉です。店内では基本ジャズを流していますが、それに限らず、CDを持参頂ければお客様の了承を頂いた上でおかけします。ところで良い音楽と悪い音楽、この定義は難しいので皆様に委ねたいと思います。
 
<再生装置>
これはお聴き頂く以外にありませんが、自作スピーカーと真空管シングルアンプの組み合わせで、シンバルを叩く瞬間の空気、ベース弦が弾ける音や胴鳴り、サックス奏者の口の形、これらを少しでも再現したいなどと、分不相応な目標を大金を投じる(無いのだから無理)のではなく工夫で実現したいのですが、終わりがなくてまあ病気でしょう。
 
私のオーディオの先生や演奏家の方にも聴いて頂き、高い天井に響きが助けられているがまあ良かろうとのこと、お客様には是非お聴き頂ければ幸いです。

【KT88シングルアンプ】
真空管シングルアンプ

 
<目指すカフェ>
日本、ヨーロッパ、中東、東南アジア、国や地域でカフェの印象は違いますが、居心地の良いカフェは、お客様にゆったりした時間と空間を提供しているのが共通しています。おもてなしとか気張らず、放っておくわけでもない、そんなカフェを目指しています。
 
静かな時間を求める方と音楽を聴きたい方との両立が難問ですが、幸か不幸か、店が空いているので特に問題なしです。

 
■これからやってみたいことなどを教えてください
<南房総の自然環境の中で>
まず釣り、眼の前の富浦港には連日多くの釣り人が居るにも関わらず、一度も行ってない。また家庭菜園、ハーブや野菜苗や木々を植える事の楽しさを知りましたので、今後は植えっ放しではなく世話をしてやらないと。あとは運動不足解消に、せっかく電話一本で使えるコートがあるし、学生時代に幽霊劣等部員だったテニスの再開です。
 
<カフェ内では>
カフェ店主としての技量を磨くこと。音楽は、お皿(LPレコード)を回したいのですが、CDにも膨大な音情報が入っていることを改めて感じ、録音やミキシング技術の凄さを感じます。装置のアップグレードを含めて中期的課題です。また多少地域やお客様の様子が見えてきましたので、狭いですが、地域の楽器愛好家の方々のライブ演奏の場になれればと思います。あとは自作タワー型のサブスピーカーが思いの外好評で、メインスピーカーより聴きやすいと言われて複雑ですが、これを活用することや新作を考えてみようかと。
 
■南房総市への移住や起業を検討されている方へのアドバイスがありましたらお願いします
<移住を検討されている方へ>
最初の印象ですが、南房総の特質は良くも悪くもおおらかなこと、開業して初対面のお客様に、いきなり「歳は?奥さんいるの?子供は?」とか、「この店、いくらした?」と聞かれたのには目が点になりました。悪意が全くないのは感じましたが、それにしても・・・・。この地域は相手のバックグランドを考えない?などというのはもちろん早計で、近隣同士の事細かな配慮はありますし、接点の薄い人との距離感を考える必要性があまり無いと言うことでしょうか。
 
移住してきて数年で去る、近隣との交流を絶つ、どちらも残念ですが、移住者は地域と自分のスタンダードのギャップや、近隣との距離感の取り方に悩むところです。いっそ異宗教や異民族の多様性が当然であれば、お互いに侵してはならない領域を理解しやすいのでしょうが。いずれにしても南房総に魅力を感じての移住だし、阿吽の呼吸の難しさを含めて楽しむのが良いのかと思います。
 
<起業を検討されている方へ>
新米でおこがましいのですが、開業前にこの道の先輩からは、接客の心得や忍耐の重要性等々、色々教えてもらいました。一方以前から国内外のジャズスポットや喫茶店を訪ねていましたが、相当数が廃業、加えてこの地域は個々人が車で動きますし自営業の方も多い、観光客もピーク以外はまばら、当然喫茶店でお茶をする機会は少ない。ジャズに関しても、私の身内や同僚でもジャズファンは多分百人に一人?それでも“いつの日か、明るく開放的な環境でジャズを”という望みは変わらず、実行しなかった場合の後悔の方が大きいというのが結論でした。お客様の無い日等、多少めげますが後悔はありません。開業前の仕事の教訓は”最後は熱意と誠意”であり、仕事の種類や内容、相手先の人種や宗教が違っても同じだと思います。
 
いつまで続けられるかも分かりませんが、健康でさえあればOKで、読書を初め好きなことができる、と楽天的に考えています。カミさんもハーブやケーキ作りができます。
 
始めてみて、今までの友人知人とは別の業種や経歴の方々と知り合いになれるのも大きいと思います。残念なのは週末のイベントやたまのライブ等に行けない、週末が休日の友人と遊べないことです。
 
好きで始めたことですから、一喜一憂せずに、自然なくつろぎの場を提供することに主眼を置いてやって行こうと思います。“老いるとは歳を重ねることではない、好奇心を失うことだ”とあります。何よりも健康(他界した父の口癖)ですが、好奇心は生きる糧だと思います。南房総には人を惹きつけるものがあります。
 


 
<店舗情報>
【所在地】南房総市富浦町多田良1290-8
(北浜神明神社隣り、枇杷倶楽部から車で2分程度、徒歩15分)
【営業時間】
夏期(4月~9月):10:00~17:30
冬期(10月~3月):10:00~16:30
定休日:月・火
【メニュー】コーヒー、紅茶、ハーブティー、ソフトドリンク、アルコール、
      ソフトドリンク以外にはミニケーキかナッツ付き、値段はワンコイン以下。
【席数】内に10席、外は4席
【駐車場】4台程度

 

【眼下の海岸を5分ほど東に行けば富士】
多田良海岸のダイヤモンド富士